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郷土学習における「災害の記憶」と「防災意識」の乖離


郷土教育の研究だったり、社会科副読本そのものの研究だったりするならば、わりと単純な話になるのかもしれないけれど、今回の調査に限定した関心から言えば、「災害の記憶と郷土教育の間にはどのような関係が存在しているのか、またはどのような関係が取り結ばれる可能性があるのか」という点が重要になってくる。

正確には、災害の記憶と防災教育と郷土学習の三者の関係がどうなっているのか?今後どうなり得るのか?ということが大事なのだ。副読本の記述を通じて、それらを明らかにすることが出来ないかというのが、今回の研究の主旨である。

そもそも、なぜ副読本なのかという疑問もある。だが、逆に言えば、「自分たちの暮す地域のことを知る」ことができる手段というのは、副読本ぐらいしかないのではないか、という言い方もできる。

ここでは大げさに郷土学習とか呼んでいるけれど、「自分たちの暮す地域のことを知る」ことができる場面というのはそんなに多くない。家庭内で親や祖父母からの伝承、または子ども社会の中で共有される知識というのはあるかもしれないが、よっぽどの郷土史マニアや地理マニアでなければ、自分の住む地域や自治体のことなどあまり詳しくない。

もちろん、地域の伝統的なお祭りに参加したり、住民組織と何らかの関わりをもっていれば別かもしれないが、そういう状況というのは、既に一般的なケースとして想定しにくくなっているように思える。また最近では総合学習などで子どもたちが地域社会に出る機会が増えているのかもしれないが、総合学習のテーマは多岐にわたり、「地域を学ぶ」ことに内容が限定されているわけではない。

以前書いたかもしれないが、だからこそ制度化された学校教育の中で用いられる社会科副読本というのが「唯一」とも言える郷土学習の「担保物件」なのである。

実際に副読本がどのように使われるのかという部分については、現場の先生の裁量次第ということになるが、副読本の中身自体には、その地域が「地域の何を子どもたちに学ばせようとしているのか」という姿勢が透けて見えてきそうな気がする、ということで副読本の内容を調査しているのだ。

そんなこんなで、木曽三川流域の自治体における副読本の内容を調べて回ったわけだが、結論としては、出来事としての「災害の記憶」と、備えとしての「防災」が乖離しつつあるということが言えそうだ。

輪中地帯の洪水は、繰り返し繰り返し起こってきたものである。それも、地震と違って一生の間に何度も何度も起こってきたものだ。かつては、過去の災害を学ぶことと、未来の災害を防ぐことは、イコールで結ばれていた。だから、輪中地帯のいくつかの自治体の副読本は、執拗に(?)輪中について学ばせようとしている。

ところが、堤防が強化され、排水機が設置されてくると、「乗り越えられた過去の出来事」として災害が提示されることはあるものの、地域社会のリアルなリスクとして災害が提示されないようになってくる。副読本の限られた紙幅において、「安全」の項目からは洪水が削除され、消防や防犯、交通安全という事項が優先されるようになってくる。それはある意味当然の流れだろう。

全体的な傾向としては、郷土学習という枠組みにおいて「災害の記憶」と「防災」が乖離しつつあるのだが、その流れを加速させるのが市町村合併による「郷土教育の統合」の問題である。

旧自治体がローカルなスケールに基づいて副読本の内容を構成してきたものが、より広域なスケールの自治体として合併されると、災害の危機意識はより希薄なものとなる。川や堤防に近い自治体と堤防から遠い自治体が一緒になり、過去の災害や危機意識は全体から見ると局所的な問題となってしまい、「新しい郷土」として学ぶ対象からはずされてしまうことになる。

そしてさらに、指導要領の改正の影響も大きい。近年では「教える」ことから「学ぶ」ことに主眼が置かれるようになった。副読本の内容も大きく削減され、その代わりに、資料館や博物館、地元の大人などに「取材」しながら「ナマの知識」を得ることが推奨される。

輪中地帯に限って言えば、指導要領の改訂によって「低地のくらし」という単元がなくなってしまったことの影響が大きい。「低地のくらし」=郷土学習という位置づけであったため、「低地のくらしを学ぶ=過去の災害と苦労を学ぶ=防災」という公式が崩れてしまったのだ。

もちろん、木曽三川地域の子どもたちは、今でも校外学習や遠足などで木曽三川公園や千本松原に来たり、旧長島町の「輪中の郷」や、海津市の「歴史民俗資料館」に来たりするようなので、単線的に「災害の記憶」と「防災」が乖離しているというようなことは言えないのだけれど、傾向としては上記のようなことが指摘できるのではないかと考えている。

このあたり、あと2週間で資料の追加収集と読み込みによって、さらに煮詰めていきたいと考えている。

ということで、今からまた岐阜に行ってきます~。

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